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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2093号 判決 1977年11月21日

昭和四九年(ネ)第二〇六九号事件控訴人

同年(ネ)第二〇九三号事件被控訴人

第一審原告 小川要

右訴訟代理人弁護士 馬場数馬

昭和四九年(ネ)第二〇六九号事件被控訴人

同年(ネ)第二〇九三号事件控訴人

第一審被告 横山義雄

右訴訟代理人弁護士 伊藤武

主文

第一審原告の控訴に基づき、原判決中第一審原告の敗訴部分を取り消す。

第一審被告は、第一審原告に対し、更に金九一〇万円及びこれに対する昭和四六年九月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第一審被告の控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一・二審とも第一審被告の負担とする。

事実

第一審原告代理人は、主文同旨の判決を求め、第一審被告代理人は、「原判決中第一審被告の敗訴部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。第一審原告の控訴を棄却する。訴訟費用は、第一・二審とも第一審原告の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

原判決二枚目裏四行から同五行目の「停止条件付代物弁済の予約」を「停止条件付代物弁済契約」に、同五枚目裏四行及び同九行目の各「甲第一」を「甲第一号証」にそれぞれ改める。

(第一審原告代理人の陳述)

一  原判決請求原因2記載の第一審原告の横山精工株式会社(以下、横山精工という。)に対する債権二四九〇万円は、第一審原告が横山精工に貸し付けたもので、(1)昭和四五年一月六日の貸付金一〇九〇万円、(2)同年七月一四日の手形貸付金二〇〇万円(横山精工振出の額面二〇〇万円満期昭和四六年三月一〇日の約束手形)、(3)昭和四五年一二月一四日の手形貸付金七〇〇万円(同じく額面七〇〇万円満期昭和四六年五月一〇日の約束手形)、(4)昭和四五年一二月一四日の手形貸付金五〇〇万円(同じく額面五〇〇万円満期昭和四六年六月一〇日の約束手形)の合計額である。

二  第一審被告の当審における主張事実を否認する。

(第一審被告代理人の陳述)

仮に、第一審被告が第一審原告に対し第一審原告主張の保証をしたとしても、右保証契約の際、第一審原告と第一審被告間に、「第一審被告が第一審原告から抵当権設定登記の抹消を受けた不動産を新たに担保に供することによって、横山精工が三浦商事株式会社(以下、三浦商事という。)から金三五〇〇万円を借り入れることができたときには、第一審被告の第一審原告に対する保証債務は消滅する。」旨の合意が成立した。そして、右約旨に従い第一審被告がその所有の不動産(一部第一審原告の抵当権の目的不動産と異なるが、第一審原告の抵当権の目的不動産の総面積が六八二三平方メートルであるのに対し、三浦商事のため設定された抵当不動産の総面積は六九八三平方メートルである。)を担保に供し、横山精工は昭和四六年七月二日三浦商事から金三五〇〇万円を借り受けたので、右保証債務は消滅した。

仮にそうでないとしても、前記保証契約の際、第一審原告と第一審被告間に、第一審被告は横山精工の債務につき右三五〇〇万円をこえて責任を負うことはない旨の合意が成立したところ、第一審被告は、同年八月三一日、三浦商事に対し、右三五〇〇万円を代位弁済したから、前記保証債務は消滅した。

(証拠関係)《省略》

理由

一  第一審被告が、横山精工の第一審原告に対する債務を担保するため、第一審被告所有の東京都町田市金井町字一二号一三五一番畑九畝歩外二二筆に抵当権を設定しその旨の登記を経由し、かつ、停止条件付代物弁済契約及び停止条件付賃借権設定契約を締結し、停止条件付所有権移転仮登記及び停止条件付賃借権設定仮登記を経由したことは当事者間に争いがなく、右事実に、《証拠省略》を合わせれば、右は、第一審原告が、横山精工に対し、昭和四一年四月一日金二〇〇〇万円を利息日歩四銭一厘、損害金日歩八銭二厘の約で貸し付けた債権を担保するものであったことが認められる(もっとも、《証拠省略》を総合すれば、右抵当権の債務者横山精工の代表取締役横山文平、債権者第一審原告、物上保証人第一審被告間では、右抵当権を横山精工の第一審原告に対する一切の債務につき極度額二〇〇〇万円の範囲で担保する根抵当権として取り扱うことにつき合意が成立していたことがうかがわれ、これに反する原審及び当審における第一審被告の供述は採用できない。)。

二  《証拠省略》を総合すれば次の事実が認められる。

第一審原告は、横山精工に対し、(1)昭和四五年一月六日金一〇九〇万円を貸し付けたほか、(2)同年七月一四日金二〇〇万円、(3)同年一二月一四日金五〇〇万円、(4)同日金七〇〇万円をそれぞれ手形貸付けした(甲第八号証の二は右(2)の、同号証の四は右(3)の、同号証の三は右(4)の各書替手形である。)。なお右貸付金のなかには、物井善一郎から貸付資金が出ているものも含まれているが、第一審原告と物井との間には、横山精工に対する貸主にはすべて第一審原告がなり、金銭の出捐関係は物井と第一審原告の内部関係とすることで了解ができていた。

横山精工は、昭和四六年六月、資金に困り経営が行き詰っていたところ、横山精工の代表取締役横山文平は、横山精工の経営を立て直すために、兄である第一審被告の所有する不動産を担保にして数千万円の融資を受け、これをもって高利の借金を返済するとともに、運転資金を獲得する方策を考えた。しかし第一審被告所有の不動産のうち一九筆(《証拠省略》によれば、前記二三筆になされた抵当権設定登記、停止条件付所有権移転仮登記及び停止条件付賃借権設定仮登記のうち、東京都町田市金井町字一四号一五七七番田一五八平方メートル外三筆についての右各登記は昭和四五年五月一三日抹消されていることが認められる。)には第一審原告のため右の各登記(以下、右一九筆の右各登記を本件登記という。)が経由されているので、本件登記を抹消するのでなければ、横山精工の再建に必要な資金を獲得するための担保として十分でないと考えられた。そこで、横山文平及びその依頼を受けた弁護士大隅乙郎は、第一審原告及び第一審被告をそれぞれ説得して、第一審原告からは、本件登記の抹消に応ずること、そのかわり横山精工は第一審原告に対する前記借受金合計二四九〇万円につき公正証書を作成し、かつ、第一審被告が第一審原告に対し、横山精工の第一審原告に対する債務につき前記抵当権の被担保債権額二〇〇〇万円の限度でその支払を保証することにつき承諾を得、また第一審被告からは、第一審原告が本件登記の抹消に応じた場合には第一審原告に対し右の保証をし、その所有の不動産を新たに三浦商事から借り入れる数千万円の担保に供することにつき承諾を得た。そして、右の趣旨に従い、昭和四六年六月一六日、第一審原告と横山精工の間に、債権者を第一審原告、債務者を横山精工とする金二四九〇万円の債務弁済契約公正証書が作成され、同日、第一審被告は、第一審原告に対し、「第一審原告が本件登記を抹消した場合には、横山精工の第一審原告に対する債務中金二〇〇〇万円を限度にその支払を保証することを約束する。」旨記載した保証書(甲第一号証)を作成交付した。

《証拠判断省略》

三  第一審原告が、昭和四六年七月八日、本件登記をすべて抹消したことは当事者間に争いがない。

四  第一審被告は、第一審原告主張の保証契約は第一審被告の意思表示に錯誤があるので無効である、仮にそうでないとしても横山文平が欺罔したものであるから右保証契約を取り消す旨主張する。

第一審被告は、右錯誤ないし欺罔を根拠づける事実としてまず、本件保証契約にあたり、保証の限度額は二〇〇〇万円とするが同契約締結時の横山精工の第一審原告に対する債務額は一〇九〇万円にすぎないから実際の保証額は右金額にとどまる旨述べられたこと(抗弁1の(1))、また、右保証契約の際横山精工の業態は好況であるから、第一審原告に対する債務はすべて横山精工が返済し、第一審被告に損害をかけることはない旨表示されたこと(抗弁1の(2))を主張するが、右抗弁1の(1)については、これを認めるに足りる証拠はなく、また右抗弁1の(2)の主張に副う原審及び当審における第一審被告の供述部分は、すでに認定した事実に照らしただちに措信できない。他に第一審被告の前記主張事実を認めるに足りる証拠はない。

五  更に、第一審被告には、第一審原告と第一審被告との間に本件保証契約の際、(1)「第一審被告が第一審原告から抵当権設定登記の抹消を受けた不動産を新たに担保に供することによって、横山精工が三浦商事から金三五〇〇万円を借り入れることができたときには、第一審被告の第一審原告に対する保証債務は消滅する。」旨の合意が成立し、(2)仮にそうでないとしても「第一審被告は横山精工の債務につき右三五〇〇万円をこえて責任を負うことはない。」旨の合意が成立したことを前提として、本件保証債務の消滅を主張する。

なるほど《証拠省略》中には、右合意の成立をうかがわせるかの如き供述部分が存しないでもないが、先に認定した事実に照らすと、右供述部分はただちに採用できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

六  次に第一審被告は、本件保証はいわゆる根保証であるから債権額の確定が必要であるのに、本件の場合には右の確定がないと主張するが、第一審原告の横山精工に対する債権(合計二四九〇万円)についてはすでに認定したところであり、《証拠省略》によれば、横山精工は昭和四六年八月頃手形の不渡を出して倒産し、代表取締役の横山文平も昭和四八年三月二七日死亡し、その後代表取締役の選任もないことが認められ、右によれば横山精工と第一審原告間の取引は終了し、その間に担保すべき債権の発生する余地はないというべきであるから、本件保証の被担保債権の範囲はすでに確定したことが明らかであり、第一審被告の前記主張は採用できない。

七  最後に、第一審被告は、いわゆる催告の抗弁権を主張するところ、これに対し、第一審原告は、第一審被告が主たる債務者の現住所及び所在を証明すべきであると主張する。

第一審原告の右主張は、本件が、民法四五二条但書にいう主たる債務者の行方が知れないときに該当する旨主張する趣旨と解されるところ、すでに認定したように、横山精工は倒産し代表取締役も死亡して、その後その選任もされていないのであるから、本件の場合は右但書の場合に該当し、第一審被告は第一審原告に対し催告の抗弁権を主張できないことが明らかである。

八  以上認定したところによれば、第一審被告は、第一審原告に対し、本件保証の限度額二〇〇〇万円(本件の限度額はいわゆる元本極度額であると解するのが相当である。)及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明かである昭和四六年九月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があることが明らかである。

よって、第一審原告の本訴請求はすべて認容すべきであるから、原判決中第一審原告の敗訴部分を取り消し、更に右請求部分を認容し、第一審被告の控訴を棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 内藤正久 堂薗守正)

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